スポーツイベントが盛んなグアム。中でも今回紹介する「グアム・エキストリーム・アドベンチャー・レース(通称GEAR)」は、グアムの厳しい自然を十数時間かけて制覇する過酷なレースとして知られ、 鬱蒼と生い茂るジャングルでのトレッキングやマウンテンバイクでの横断、灼熱の太陽の下での水泳やカヤックなどは完走することさえ困難で、毎回多くの負傷者やリタイアを出しています。第10回目を 迎えた今回、そんなサバイバルなレースに挑戦した選手たちを追ってみました。 5月30日午前3時、ウマタック湾。 夜明けまでにはまだ数時間あり、辺りは真っ暗。そんな中、レースに挑むプロチーム13チーム、 ソーシャルチーム6チーム、計19チーム64名が集まりました。プロチームは4人1組でレース全行程に、ソーシャルチームは2人1組でコースの途中に設けられた8つのチェックポイントの6つ目までの行程に挑みます。 各チーム毎に、発表されたばかりのその日自分たちが挑むコースを、配られた地図を広げ確認。 このレースで重要なのは、もちろん体力とスタミナ。しかし同様に、いや、ある意味それ以上にレースを左右するのがチームワークとナビゲーション力。チームが結成されたその時からすでにレースは始まり、与えられた地図でコースを確認するこの作業は、レースの第一関門です。
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配られた地図を広げ、コースを確認する選手たち
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携帯品などのチェックにも余念がない
その後、主催者によるコース説明があり、いよいよスタート。時刻は午前4時。まだ陽が昇る気配もなく、辺りは真っ暗。選手全員がビーチに入り膝の辺りまで水に浸かると「ゴー!」という合図とともに一斉にスタートしました。サポーターや応援者たちの声援と拍手に送り出され、選手が身に付けている懐中電灯の灯りが徐々に遠ざかります。 選手がまず目指すのはボラノス山山頂(約367m)。山頂にかざされた灯りを目ざし、自分たちの 懐中電灯の灯りだけを頼りにジャングルや渓谷を進まなければなりません。いよいよ「グアム・エキストリーム・アドベンチャー・レース」の名にふさわしいレースの始まります。 今回のコースは島の南部。ウマタック、メリッソ、イナラハン、タロフォフォの4つの村の内陸部の ジャングルエリアと海岸線です。主催者によるゴール予想時間は早くて午後8時。16時間以上に及ぶ 戦いが予想されています。 スタートしてから1時間12分後。先頭を走るチームが1つめのチェックポイント、ボラノス山山頂に 到着。チェックポイントでは、各チームのサポーターが待機。選手たちは水分補給、マッサージなどで 効率よく疲れた身体を癒し、次のチェックポイントまでのコースを確認し、鋭気を養います。 でもレースは始まったばかり。最初に到着したチームは休む間もなくすぐに2つめのチェックポイントに向けて出発。その後も続々と、さまざまな方向から選手たちの灯りがチェックポイントに向かって 近づいてきます。選手たちが考えだした最良のコースはチーム毎に異なり、このコース選びがレースを大きく動かすこともあります。 午前5時30分を過ぎ、空が徐々に明るくなってきました。日が高く昇るにつれ気温も上昇。 さあこれからが本当の勝負の時です。ウマタック湾をスタートし、北上した選手たちがカヤックと コースタリング(海沿いに歩き、泳ぎ、時には岩壁を登る海岸線のトレッキング)の2組に分かれて セッティ湾を抜け、4つめのチェックポイント、ウマタック湾に再び到着。初めに到着したチームは8時45分。 その後、9時の計測によるとすでに気温は29.4度、湿度85%。屋外での長時間に及ぶスポーツには危険なレベルです。主催者側は、スタッフやサポーターに、選手たちの体調管理について厳しく指示。そしてここで初めての棄権者が出て、2チームが3名でチェックポイントを出発することに。 その後も気温の上昇、疲労の蓄積とともに棄権者が続出。蜂に刺され重度のアレルギー症状に陥る選手、医療チームの判断によりヘリコプターを出動させ緊急搬送される選手など、レース開始から7時間後、5つめのチェックポイントであるメリッソで、すでに今年のレースも例年どおりの過酷なレース展開となりました。
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チェックポイントで点滴を受ける選手たち (写真提供/Tim Rock)
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病院へ緊急搬送するためのヘリコプターが到着 (写真提供/Tim Rock)
さて9時58分、5つめのチェックポイントにトップで入ってきたのは、ゼッケン4、サイパンから出場しているチーム「Don't Be A Kitty」でした。4名中3名が優勝経験者。出場経験はあるものの、まだ 優勝経験のない残り一人はなんと日本人女性。ぜひともがんばってもらいたい!
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チーム「Don't Be A Kitty」。日本人女性も大健闘! (写真提供/Tim Rock)
その13分後、2位で入ってきたゼッケン2「White Tighty」は6つめのチェックポイントに向けて、 ササラグアン山を超えるルート選び、逆転の賭けにでます。 イナラハンにある6つめのチェックポイント。トップで帰ってくるのは果たしてどのチームか。 午後1時22分、まず姿を見せたのは「Don't Be A Kitty 」、続いて1時間3分後に「White Tighty」が到着。その差が一気に開きました。「Don't Be A Kitty 」が出発した44分後「White Tighty」は、 わずか14分の休憩をはさみ、「Don't Be A Kitty 」を追うように7つめのチェックポイントに向け出発。
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(写真提供/Tim Rock)
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(写真提供/Tim Rock)
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(写真提供/Tim Rock)
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(写真提供/Tim Rock)
ソーシャルチームは、6つめのチェックポイントに到着したところでレースは終了。GEARの過酷な レースを経験し、おそらく来年はプロチームで出場し、全コース走破に挑戦することでしょう! 辺りが暗くなり始めた午後6時44分、3時間5分に及ぶコースタリングを終え「Don't Be A Kitty」が 8つめのチェックポイントに帰ってきました。24分の休憩をとった後、マウンテンバイクに乗り、最後のチェクポイントでもある、ゴールに向け出発。2位につけていた「White Tighty」は8つめのチェック ポイントに向かう途中に棄権したニュースが入ってきました。この時点でプロチーム13のうち、まだ レースを続けているのはわずか5チーム14名。しかもスタート時同様、4名でレースを続けているのは「Don't Be A Kitty」のみという展開です。 ゴール地点となったのはタロフォフォ村の内陸部にあるNASA人工衛星追跡基地ゲート前。 午後9時30分頃、暗闇の中、遠くにマウンテンバイクの灯りが見えてきました。灯りを数えると4つ。 選手を迎えるために集まったサポーターたちから拍手と歓声があがります。 そして9時37分、最後の直線を4つの灯りがまっすぐゴールに向かってやってきました。見る見るうちに灯りは大きくなり見事ゴールイン!レースを無事終えた達成感を噛み締め、4名ともしっかりした 足どりでマウンテンバイクを降ります。 そしてすぐ主催者から1位でゴールしたこと、他のチームはすべて棄権者を出し、4名でレースに参加しているのはこの1チームであることを聞かされると、驚きと喜びを声に出し、肩を叩き合い抱き合い、互いの健闘ぶりを祝福。レース前日の説明会で「十数時間も過酷な状況の中で仲間とともに過ごすことはない。どんなに苦しくても仲間との時間を楽しみたい」と語っていた日本人女性の目には、仲間と闘った17時間37分が感無量の涙になって溢れ出しました。
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残り4チームが姿を現したのはそれから1時間以上も後。10時44分に2チームが一緒に、57分に残り2チームが一緒にゴール。チームメイトは欠けてしまいましたが、最後まで戦い抜いた残りのメンバー、他のチームメンバーの健闘を讃え合い、今年のレースも無事終了しました。 今年の「グアム・エキストリーム・アドベンチャー・レース」は1機のヘリコプター、2台の救急車が出動。そして脱水症状や極度の疲労を伴った選手に施された点滴は13個。例年通り激しいレースとなりました。グアムの自然を突きつける過酷な条件をクリアした者だけが味わえる達成感。来年もこの喜びを目標に、更なる強者が登場し、レースを引っ張っていくことでしょう。 〈「グアム・エキストリーム・アドベンチャー・レース」のスタート、ゴールの様子はこちら