グアムに古くから伝わるチャモロ文化はたくさんありますが、今なお人々に親しまれ、日常生活の中で受け継がれているものは数少なくなってきています。そんな中でも、チャモロの男性の間で今なお根強く人気のある「スピアフィッシング」について、今回はご紹介します。
スピアフィッシングで獲れた大漁の魚。
今も昔もフィッシングはチャモロ人にとって
身近な文化のひとつです。
(Photo provided by James Borja)
「スピア」とは槍という意味。その名の通り、槍を使って魚を獲ることをスピアフィッシングと言います。太平洋に浮かぶ小さな島グアムでは太古の昔から魚を食料として生活を営んできましたが、その際スピアが使われていました。当時のスピアは持ち手が木製、魚を突く歯の部分が骨で作られ、それを片手に持って浅瀬で魚を獲っていたといわれています。
このスピアは持ち手が木製、魚を突く歯の部分がブルーマーリン(クロカジキ)の
上顎の骨で作られています。
堅くて丈夫で鋭くて、一突きで魚を仕留められそうです。
チャモロ人のフィッシング技術が優れていたことは、15世紀にグアムを訪れたスペイン人によって書き残されています。1602年にマリアナ諸島を訪れたスペイン人宣教師ジョン・ポブレ・デ・ザモラ氏は、チャモロ人のことを「世界最高のフィッシャーマン」と絶賛したと伝えられています。
「世界最高のフィッシャーマン」の血を引き継ぎ
スピアフィッシングを趣味とするチャモロの男性は今も沢山います。
スピアフィッシングは夜行われることが多いようです。
夜なら魚も眠っているので、比較的簡単に仕留められるとか。
この日はロブスターも大漁です。
15世紀以降にヨーロッパの文化がグアムに入って来ると、それまでグアムには存在しなかった金属製のスピアが登場します。後にはマスクやゴーグル、フィン、さらにタンクなどが加わり、スピアフィッシングの技術は格段に進歩。スタイルも変化していきます。
しかし、現在も人々が好むのはスピアを片手に素潜りで海に入る、従来のフリーダイブスタイル。そして獲った魚は家族で分け合い、みんなで料理します。神からの自然の恵みを家族が食する分だけ獲り分け合って食べる、そんな精神も古代から受け継がれているのです。
最近のスピアフィッシングでは、金属製のスピアが使われることが多いようですが、
素潜りで必要最小限のフィッシングを楽しむスタイルは、今も昔も変わりがありません。
(Photo provided by James Borja)
その一方、現在はスポーツとしてのスピアフィッシングが世界各国で行われています。4年に一度行われるミクロネシア地域のスポーツ大会「ミクロネシア・ゲーム(Micronesian Games)」には、野球や水泳などの他ヤシの実早割りなどのユニークな競技が正式種目に登録されており、そしてスピアフィッシングも正式種目のひとつとなっています。この種目では2010年にパラオで行われた大会において、グアムチームが見事に金メダルを獲得しました。
2010年のミクロネシア・ゲーム、優勝の様子。
(Photo provided by James Borja)
ミクロネシア・ゲームの参加国・参加地域は、北マリアナ諸島、チューク、ヤップ、パラオなどのミクロネシアに浮かぶ島々です。これらの、フィッシングとは切り離せない暮らしをしてきた島々の人ばかりの中で、グアムチームが金メダルを獲得したことは大変に価値があります。
デデド村で毎週末開催されているフリーマーケットには、獲れたばかりのイキのいい魚を売っているお店がたくさんあります。また、チャモロビレッジ隣の魚屋さん「グアムフィッシャーマンズ・コープ(GUAM FISHERMEN'S CO-OP)」にも、毎日新鮮な魚が並んでいます。そこで売られている魚たちをよく見てみると、体に1cmほどの穴が開いた魚を見つけることができるでしょう。それはスピアフィッシングで獲った魚です。娯楽として、スポーツとして親しまれているスピアフィッシングですが、魚屋さんでもその形跡を見ることができます。
グアムフィッシャーマンズ・コープの店舗に並ぶ魚たち。
近海で獲れた新鮮なものばかりです。
スピアフィッシングは、今もなおチャモロ人にとっては生活の糧であり、そしてスポーツであり娯楽のひとつでもあります。世界各地で伝統文化の継承が難しいと言われる昨今ですが、幸いなことにスポーツや娯楽としてのスピアフィッシングは現在若い人たちにも人気です。是非チャモロの精神とともに後世まで引き継いでほしいものです。
今年もWEEKLY GUAMでは、グアムの歴史や文化、グルメ&イベント情報、そしてローカルの暮らしなど、様々な情報をお届けしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。